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超高速コンピューター網形成(NAREGI)プロジェクト 分子研リポート2004 | 分子科学研究所

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60 分子科学研究所の概要

2-13-1 NA R E G I「ナノサイエンス実証研究」拠点の現状と課題

NA R E GI プロジェクトが開始して2年目が終了しつつある。分子科学研究所は「ナノ実証」の拠点としてこのプロ ジェクトを推進しており,ナノサイエンス分野の計算科学において,着実に成果をあげつつある。(これらの成果につ いては「ナノサイエンス実証研究」第3回公開シンポジウム講演要旨集を参照のこと。)また,産学官連携プロジェク トとして進めている産業界からの「ナノ設計実証」公募研究への参加も本年2月15日現在で16社19件と着実に増えて いる。(添付資料参照)一方,2年が経過した現在,プロジェクトを成功に導く上で,早急に解決すべき問題点も出て 来ている。本稿ではそれらの中で(1)プロジェクトの位置付け,(2)産学連携,(3)グリッドナノシミュレータ,の3つにつ いて拠点としての見解を述べる。

(1) プロジェクトの位置付け

本プロジェクトの特徴のひとつは「グリッド環境」という IT 分野と「ナノサイエンス」という分子・物質科学分野 の共同研究にある。これら二つの分野はこれまでほとんど接触がなく,これほど広範にしかも緊密に共同を行うのは おそらく国際的にも初めてのことであろう。プロジェクトのこの性格のために,当初,両分野の研究者の間に様々な とまどいと疑問が生じた。特に,計算分子科学者の間では「何故,グリッドなのだ?」,「何故,従来型のスパコンで はいけないのだ?」という疑問が生じた。この疑問は「我が国の将来の計算分子科学がどうあるべきか」という問題 とも密接に関係しており,目をつぶって通り過ぎるわけにはいかない。ここでは「ナノサイエンス」に特化して,こ の問題に関する考えを述べる。

ナノサイエンスが対象とする物質のサイズは10–9–10–6 m 程度のスケールであり,このスケールの問題はいわゆる現 象論的理論(熱力学,弾性体力学,流体力学,電磁気学など)とミクロの理論(分子動力学,量子力学)の中間のス ケールでどちらの側からも極めて取り扱いが難しいスケールである。現象論の側からは単に難しいだけではなく,本 質的に不可能である。何故なら現象論的世界とナノの世界を支配する法則が全く異なっているからである。一方,ミ クロ(原子,分子)の世界とナノの世界を支配する法則は本質的に同じである。しかしながら,ミクロの理論にとっ てもこの問題は極めて難しい。それは分子サイズ(電子数や構造空間の自由度)が大きくなったために計算量が飛躍 的に増大するというだけではない。さらに深刻な理論的問題が横たわっているのである。ナノ現象の典型例は,例え ば,分子デバイスや溶液中の蛋白質のフォールディングである。これらの系は「有限系」と「無限系」あるいは別の 見方をすれば「均質系」と「不均質系」とが入り混じっていることが特徴である。例えば,溶液中の蛋白質や分子集 合体(ミセル,ベシクル,リポソーム)の場合蛋白質のサイズは有限,不均質系であるが,溶液は無限,均質系であ る。分子デバイスの場合,分子スイッチは有限,不均質系であるがそれを埋め込む固体基盤は無限,均質系である。伝 統的な理論化学物理においてこれまで無限系・均質系を扱う理論と有限系・不均質系を扱う理論とは概ね独立に発展 を遂げ,それらはそれぞれ得手,不得手をもっている。無限系・均質系を取り扱う理論では例えば液体の統計力学が ある。この理論は熱力学的安定性(自由エネルギー)を求めるには有利であるが,局所的構造や揺らぎを扱うには適 していない。一方,比較的少数の多体系を扱うことを目的に考案された「分子シミュレーション」は局所構造をミク ロレベルで詳細に扱うのに便利であるが,熱力学的安定性を扱うには極めて不利である。また,同様のことは電子構 造を扱う理論にも当てはまる。バンド理論に代表される固体電子論は比較的小さな平面波基底で扱うことができる非 局在化した電子は得意とするが局在化した電子は不得手である。一方,分子の電子状態を扱う量子化学はガウス基底 などで記述できる局在化した電子の取り扱いに威力を発揮するが,無限に拡がった金属内の電子に対してはあまり有

2-13 超高速コンピュータ網形成(NA R E G I)プロジェクト

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分子科学研究所の概要 61 効とは言えない。ナノサイエンスが対象とする物質はまさに均質と不均質,あるいは無限系と有限系が入り混じった 系であり,このような系を分子・原子レベルで取り扱う理論は今のところ存在しない。

グリッド計算環境がナノサイエンスに有効であると考える根拠は,この「均質」と「不均質」および「有限系」と

「無限系」の混在というナノ現象に特有の「複雑性」にある。このような複雑系の個々の要素に関わる研究者は全国あ るいは全世界に散在しており,また,それぞれの計算環境(ハード,ソフト)を自分自身の研究に最適化して使って いる。グリッドはこれらの研究者を超高速ネットワークで結び付け,彼らの共同研究を「実時間」で実現する環境を 提供する。このプロジェクトが成功した暁には,個々の方法論やプログラムの開発者は(市販のものも含めて)他の プログラム開発者とライセンス契約を結ぶだけで,それらのプログラムを,直接,自分自身のプログラムにインテグ レートして使用することができるようになるだろう。

(2) 産学官連携について

本プロジェクトはもうひとつの性格をもっている。それは国の「産業再生プログラム」の一環としての「産学官連 携」という性格である。プロジェクト開始後2年が経過した現在,この「産学官連携」をめぐっていくつかの問題が 生じている。法人化後の大学や公的研究機関と産業界との連携プロジェクトの機会が多くなると予想される現在,そ れらは決して見過ごすことのできない問題を孕んでいる。すなわち,「産」の側からは「もっと直接的に個々の企業利 益につながる産学連携」を希望する声が出てきており,一方,「学」の側ではそれに対する強い反撥が生まれている。

本プロジェクトの第一のミッションがグリッド計算環境の実証研究であり,その目的を達成するためにナノサイエ ンスの分野を先導する理論的方法論を構築することにあることはいうまでもないが,このような方法論が,将来,実 際の生産や医療活動に活かされるとすればそれは我々研究者にとっても大きな喜びである。そして,そのために産学 官が連携して研究活動を行うことの重要性について全く異論を挟む余地はない。しかしながら,そのことは「産学官 連携」が無原則的に行われてよいということを決して意味しない。

本プロジェクトの全費用は国からの公的資金で賄われている。また,「学」の側の研究者は国費で雇われているだけ でなく,個々の研究者が本プロジェクトに提供することを期待されている研究成果の多くはプロジェクトに参加した 個人が開発した部分だけではなく,多くの先達によって行われたものを基礎にしており,その意味でも公的な性格を もっている。すなわち,本プロジェクトは2重,3重に「公的」性格を帯びているのである。したがって,「学」側の 研究者は個々の一企業だけの私的利潤に直接結びつくような援助や研究テーマの選定には慎重にならざるを得ない。一 方,個々の企業の本来の目的は「利潤追求」にあり,私的な性格を帯びざるを得ない。したがって,その研究テーマ はできるだけ企業の当面の利益に直接結びつくようなものが理想的である。上に述べた問題はこの「公」と「私」の 間の矛盾であるとも言える。

ここで,この点について拠点としての基本的なスタンスを改めて表明したい。

産学官連携には三つの原則が必要である。それは①公正であること,②研究成果の公開,③学問の自由,の三つで ある。

まず,公正でなければならない。すなわち,本プロジェクトに参加する資格や本プロジェクトの成果を享受する権 利は広く社会に開かれていなければならない。これは特定の企業がその利益を追求するためのプロジェクトではない からである。もし,プロジェクトに参加した学側の研究者が特定の企業の利益だけを優先すれば,それは他の企業に とって不利益になる可能性が高い。それは「産」の中に抜き差し成らぬ不信感を生み出し,プロジェクト崩壊の危険 にもつながりかねない。

(3)

62 分子科学研究所の概要

次ぎに,このプロジェクトで行われた研究の成果はすべて公開される必要がある。これは本プロジェクトが公的資 金,すなわち,国民の血税を使って実施される以上絶対に守られるべき原則である。もちろん,個々の企業がプロジェ クト終了後にその成果をその技術開発や生産活動などに活用することは大いに奨励されるべきであるが,それを本プ ロジェクトの参加企業のみに限定する根拠はない。これはプロジェクト全体の「説明責任」に関わる問題である。

最後に,学問の自由,すなわち,「研究テーマ」や「研究方法」などの選定および研究の発表については研究者に完 全に任せられなければならない。もし,どのような研究であれ「学問的動機」以外の何らかの強制が働く場合,研究 者の自発的な研究意欲は殺がれ,プロジェクトの成功自身が保証されないからである。このことは先に述べた「公正」 および「公開」の原則とも密接に関係している。もし,個々の企業が自己の利益の追求に急なあまり,研究者にとっ て興味のない研究テーマを押し付けようとしても,それはお互いにとって不幸な結果を招くだけである。また,企業 秘密を守ることを優先するために論文発表を妨げることなどは研究者の「学問的動機」と真っ向から対立する発想で ある。

(3) グリッドナノシミュレータ

本プロジェクトの目的はグリッド計算環境の有効性をナノサイエンス分野の計算科学において実証することである。 この目的を果たすため,開発された各シミュレーションプログラムをグリッド環境下で統合,実行するツールとして, グリッドナノシミュレータを計画している。特に metacomputing,high throughput,real-time collaboration を考えた時, このシミュレータは次のような要求を満足しなければならない。まず第一に,グリッドミドルウェアを用いることに より,各ソフトが単独で稼動することに加えて,各サイトの様々なソフトを結合,連成し,多様な使用形態,実行パ ターンに対応できる機能を持つことである。MPI 並列化後のアプリケーションのグリッド化機能はこのシミュレータ が受け持つこととなる。そのため第二には,このシミュレータは汎用性に富んでいなければならない。もちろん, NA R E GI 開発のシミュレーションソフトに加えて,それ以外の既存のフリーウェア,市販ソフトも個々のソフトの著 作権を侵すことなく実行可能でなければならない。このため個々のプログラムの個別性,特殊性を認めた上で,任意 のプログラムに対しこれらを修正することなく,互いに必要データの受け渡しを行いながら任意の結合,連成,任意 の実行パターンを実現することが不可欠となる。第三に,研究の作業効率を高めるために,シミュレータは利便性の 高いものでなければならない。

これらの要件を実現するために,シミュレータの機能とそれを受け持つシミュレータツールの部品化を進め,これ らの部品をワークフロー GUI などのグリッドミドルウェアを用いて統合し実行するという形式を選択する。ここで開 発するツールとしては,まず第二の要求を満足するために,各プログラム固有の入出力書式に従って作成した個別の 入出力テンプレートを通して,他の任意のプログラムの入出力との受け渡しを行うアプリケーション間データ変換ツー ル(GIA NT )の開発を進める。このとき B MS ML ,C MLなどの標準データ形式を採用することとする。また,第三の 要求を満足するために,上述の入力テンプレートに従って温度や基底など計算に必要な数値データや文字データを含 む入力ファイルを作成するための入力 GUI を開発し,さらにはタンパク質や D NA ,またデンドリマーなど複雑な構造 を持つナノ分子系および分子集合体の初期構造を自動的に生成するためのナノ初期情報生成ツールの開発も行う。

(4)

分子科学研究所の概要 63

2-13-2 2004 年度の実施状況  「ナノ設計実証」公募テーマ一覧

課 題 名 実施企業

タンパク質立体構造解析システム superF A MS のグリッド化と ab initio 構造解析手法によ るゲノムスケールへの適用

ナノスケールにおける触媒反応の解析と新規触媒の開発

R IS M-S C F 法を用いた分子物性および化学反応に対する溶媒効果への適用

拡張アンサンブル分子動力学シミュレーションプログラムの開発と酵素触媒の活性コン フォーメーション探索

アスパラギン酸プロテアーゼのリガンド結合形式に関する研究 核内レセプターのシグナル伝達に関する分子メカニズム解析 メソポーラス材料ナノ空間―吸着分子相互作用の解析 ナノ磁性粒子集合体の磁化分布解析

シリコンナノデバイス用高誘電率ゲート絶縁膜材料の劣化過程の研究 時間依存解析に基づく物性量の算出

光励起・緩和過程における多体効果の量子動力学的解析 ナノ領域における希薄混合流体の動的挙動解析

R IS M 法による溶液中の物性推算手法の研究―酸強度の推算― R IS M 法による溶媒−溶質相互作用を取り入れた物性推算手法の研究 R IS M 法による溶液中の物性推算手法の研究―溶解度の推算―

R IS M 法による溶液中の物性推算手法の研究―溶媒和の pK a への効果の推算― R IS M 法による溶液中の物性推算手法の研究―反応および活性化自由エネルギーの推 算―

R IS M 法を用いた pK a、log Pow の算出 R IS M 法を用いた pK a、log Pow の算出

日立ソフトウェアエンジニアリング

(株)(共同研究者・北里大、日本 S GI

(株)、味の素(株)) 旭化成(株) 三井化学(株) 三井化学(株) 住友製薬(株) 住友製薬(株)

(株)日立製作所 日立金属(株)

(株)富士通研究所 住友化学工業(株)

(株)東芝

(株)東芝 旭硝子(株) 昭和電工(株) 日本ゼオン(株)

(株)日本触媒

ダイセル化学工業(株) 出光石油化学(株) J S R (株)

参照

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